友人たちとの忘年会があり、最寄り駅まで戻ったあと、
友人の一人と立ち話をして別れ、
そこから駅裏の道に差し掛かったところで、
「飛び降り?飛び降り?」
という声を聞いた。
少し前を見ると、丸い人集りの真ん中に人が倒れている。
しばらく近寄れずに見ていた。
カラオケ店の人が、電話している。
どうやらその人はカラオケ店の外の踊り場から落ちたようだった。
少しも動かない。
全く動かない。
なんとなく、ダメなんだなと思った。
その横を通り過ぎた。
遠くからは見えなかった血だまりが、頭の下にあった。
重たい色の血。
また少し遠退いて、しばらく見てしまった。
そのうち警察が来て、
「誰か見た人はいませんか?」
と訊いていた。
そして救命士が来て、大声で呼びかけ、心臓マッサージをしていた。
その姿が痛々しく、虚しく、でも真摯だった。
私は以前の職場で救命救急の講習を受けた。
やり方も、10分以内かどうかで蘇生率が変わることも、知っている。
でも、それをする気には到底なれなかった。
私が見たときに何分経っていたのかはわからないけれど。
誰か脈は取ったんだろうか、とは思ったけれど。
頭から血が出ていた時点で、もう無理だ。
そしてその人は仰向けにされ、
緑色のシートの壁で覆われて見えなくなった。
そして私は立ち去った。
途中、その人とカラオケに来た友人であろう人が、大声で呼びかけていた。
そしてその肩を警察がそっと叩いていた。
多分20代だろう。
いろんなことがショックだった。
事件だと騒いでいるだけの人たち。
血だまり。
そのギャップ。
そして見ていただけの自分。
多分、酔って誤って落ちたのであろうその人は、
私の知り合いでもなんでもないけれど、
そのあっけなく終止符を打たれてしまった命が、
あまりにも儚く、軽く見えて、ショックだった。
ショックとしか言いようがない。
他に言葉が見つからない。
命に重さがあるとしたら、どれくらいなんだろう?
それは多分、人によって違う。
私には、与えられた命を全うすることしかできない。
それが最大限の重さだと思う。